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おばさんの井戸端ジェンダー       K子さんの生きかた

イラストbyつぐみ 思わぬところで、旧友・K子さんと再会しました。
20数年ぶりです。途切れていた年月を埋めるかのように夢中でお喋りしました。K子さんはお日様のように明るく暖かな表情で、言葉があふれ出てくるのです。久しぶりに彼女の言葉のシャワーを心地よく浴びていました。
途中、K子さんの口から、「主人がねえ」という言葉がするりと流れ出ました。

わたしはびっくりしました。夫を「主人」と言ったら妻が「使用人」という感じになります。なにより、K子さんは男女共同参画の「さきがけ」のような女性だったからです。「おんなの歴史」(もろさわようこ著)の読書会もした仲だったので、
「あなたがどうしてそんな言葉を使うの?」と聞くと、彼女はちょっと無念そうに言いました。
日常の小さなことで闘うのに、疲れたのよ。あなたはどう呼んでる?」
「しっくり合うのがないけれど、夫とか連れ合いとか、名前かな」
K子さんは、「主人の方が簡単だな」と言います。わたしが首をかしげていると、隣りの県に住んでいるK子さんは続けました。
「保守色の強い地域に住んでいると難しいのよ。日常のことで夫と闘っていたら、娘が混乱してぐれちゃったの。はじめ、わたしに味方してたけど、だんだんわたしを攻撃するようになって、家出したり・・・」

そう言えば、娘さんが中学生の時、K子さんは天職に見えていた教員を辞めていました。
新居をたずねたりして何度か彼女のパートナーにあっているわたしは聞きました。
「お連れ合いはすごくアカデミックな方でしたよね」
K子さんは苦笑しました。「彼はとても強い人なの。でも、家の中ではいつも妻に側にいてもらいたいみたいで、職員旅行に行きたいと言っても猛反対されたわ」わたしには返す言葉がありません。

K子さんはくるくるよく動く目でわたしに言いました。
娘がね、男になっちゃったの」
意味が呑みこめず、目をぱちぱちさせているわたし。
「結婚したのだけれど、彼にあれしろこれしろと命令ばかりして、自分は料理ひとつしないの」
ああ、そういうことですか。
「家庭で両親が日常のことでしょっちゅうケンカばかりしてたら、子どもにいいわけないわね。精神のバランスを取れなくなってしまう。お医者さんに15年かけてそういう子どもを育てたのなら、15年かけて取りもどしなさいと言われたので、覚悟したの。このごろやっと娘の気持ちが和んできてね。夫も少しはわかってきたし。遅すぎたけど」

そして、笑ってつけ足しました。
「夫に食べさせてもらっているから強く言えないけどね」
「それは違うんじゃあないの」と、わたし。(あなたが家族のために大好きな仕事を辞めてあげたんじゃあないの)とまでは言えませんでした。K子さんはうなずきましたが、「女は男に従うものだ」という大きな壁と闘いつづけてきた彼女の同意ではないように感じました。

女の自立は、経済的自立が必須条件だと思います。
家族の「役回り」と事情によって男が稼ぐ。またはその逆というケースも当然ありますが、まだまだ日本は、心ならずも稼げない状態だと「食べさせてもらっている」という負い目を持ってしまうのが実状です。生活のために収入を得ている方は「稼がせてもらっている」のにね。

K子さんは顔を曇らせて言いました。
「教員みたいに両親が共稼ぎで長時間労働の場合、子どもが深刻な問題を抱えてしまう場合がとても多いのよ。親が子どもを育てている暇がないからね。わたしのまわりでは、影響がとくに女の子に出ているわ、援助交際とかにね」
このところ未成熟な男のコの犯罪も続いていますね。ニュースを聞くのが嫌になるくらいです。

深刻な話題を明るくするかのように、K子さんは嬉しそうに自分のスタイルを見せました。
わたし、スリムになったでしょう。家族のために食事をコントロールしていたら、こうなったのよ
わたしは前のふっくらした方が好きだけどなあと思いましたが、自分の好みの体型になったK子さんはパワフルで輝いています。
「エアロビクスもやっているし、やりたいことがたくさんあるのよ」
K子さんはずっと福祉に携わっていて大きな功績がありますし、文化事業にも力を尽くしています。
わたしと会った時は、K子さんは、卒業生の仕事の支援中でした。「こんど、ちゃんと会おうね」と言いながら、軽快な足取りで職場に帰っていきました。
K子さんは経済の基盤は夫に支えてもらっているけれど、精神的にはとても充実しているように見えました。K子さんの人生は深くて豊かなのだろうと思います。

ことしは、国際婦人年連絡会ができて30周年です。しかし、国の政治には「女は家庭へ」という回帰的な動きが強まっていると感じます。
だから、小さなことかも知れませんが、言葉は使う人の意識を形成するので、わたしはパートナーの呼び方にもこだわりたいです。それに、「稼いでもらっている」のも「お互いさま」と考えたいですね。  (つ)

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